透明に濡れたオレンジの髪。シャワールームの壁と抱き合うようにもたれた男の長い手足はほどよく焼けていて、しかし太陽の下にさらされることのない背中や太股は驚くほど白かった。
厚みのない肩が、ふるふると揺れている。
嘆 き の ロ ミ
オ
「泣くなよ」
ゲームセット、ウォンバイ神尾・ゲームカウント7―6。
「…また、負けちゃったね」
嘆く部員をいつものようにへらへらと励まして、おれシャワー浴びてから帰るねぇと言った灰色の瞳によからぬ予感を覚え、バスを待つ緑のジャージ集団に1人背を向けて引き返すと、案の定男はその通り名とあまりにも似つかわしくない姿でそこに立っていた。
「キスしてよ、南」
まるで抑揚のない声と貼り付いた笑みで、男が振り返る。
「抱いてよぉ」
甘えた仕草で俺の背に腕を回してくる裸の肩を一瞬抱きしめて押し返すと、男は力無く薄汚れた水色のタイルに這いつくばった。額を床にこすりつけるその姿は、アスファルトで乾ききったカエルのよう。
「俺さ、まだ」
なぁ千石、埋めることのできない距離を知っているか。
「そういうお前の弱さとか、受け止める度量ないし」
決して満たされることのない距離を知っているか。
「どうしたらいいとか、全然」
いつのころからか、そのオレンジ色を視線で追うようになっていた。
「わかんないし」
その何気ない仕草に胸が締めつけられるように痛んだ。
「支えになんかなってやれない」
いつのころからか、そのオレンジ色を視線で追うようになっていた。
「いくじなし」
「頼むよ」
「いくじなし」
「頼むよ千石」
「いくじなし」
その何気ない仕草に胸が締めつけられるように痛んだ。
「強く、いてくれよ」
残酷だということは分かっていた。せめてもの慰めに差し出したタオルはぴしゃりとはねのけられて、男のささやかな意地ってやつに俺は苦笑する。興奮した犬でもなだめるように、その浸った髪を撫ですいてやると、男は俺の足元にひざまずいたまま、嗚咽を漏らした。
「みなみ、ばか、いくじなし」
俺はまだ、その首筋に顔を埋める資格など持ってはいない。抱き合いたいとは、思っている。(気が、する)
ほら、まだ、こんなにも遠い。
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