16.赤 澤 × 観
月
「バカバカバカバカ、本当にあなたはバカ澤です、あぁいっそのこと改名なさったらどうですか、バカ澤バカ朗、お似合いですよ」
観月はじめは氷の世界の住人だ。
「僕はもう付き合い切れませんから」
マイナス14度の視線。
「………、…」
触れることさえ、叶わない。
「ちょっとあなた、聞いてるんですか?!」
愛されるだなんてお門違いもいいところ、つめたいつめたい額縁の中で彼は微笑を浮かべ、贄をじっと待ちわびている。 俺は、観月の世界が俺の熱で陥落するいつかの日をこの場所でずっと待ちわびている。
俺たちはもがいていた。
(なんかきもちわるい)
7.芥 川 × 菊
丸
「どっか行こうよ」
部活帰りに待ち伏せをされるのは始めてでないにしても、その相手が同じ男子中学生だというのは有り得ないこと。
「どっか行こう」
しかもその相手が氷帝学園の芥川磁郎だなんて。
「どっかってどこ」
「どこでもいいよ、菊丸英二の行きたいとこ」
空の向こうでも、虹のはてでも。菊丸英二と一緒なら、おれ、たぶん空だってとべる。
「芥川磁郎ちゃんはどこに行きたいの」
「ゆっくり眠れてシャワーとか浴びれるとこ」
「ストレートすぎるね」
「ねぇ、行こうよ」
そう笑うと芥川磁郎は俺の手を取り、その小さな手に似合わぬ力をもってぎゅう、と握りしめてきた。
頷きたい、かもしれない。
(ジロはセックスがだいすきです)
8.桃 城 × 千 石
白い制服に刺繍された彼のフルネームをはじめて目にしたとき、これはひどいと思わず吹き出した。きよすみ、清純、せいじゅん、ありえねーな、ありえねーよ。
「ももしろ、くん」
オレンジ色の髪が俺の上でゆらゆらと揺れる。 奥深くまで飲み込んだ俺のかたちをを確かめたいとでも言うように、男はその細い腰を振って、あぁ、あ、ととめどない声を漏らした。
「千石さん」
「名、前で、よんでよ」
仰せの通りその名を呼びながら突き上げてやると、一際彼は高い声で鳴く。 清純と名付けた息子がこんな風に乱れていることを知ったなら、彼の両親はどんなに驚くだろう。親の心子知らず。まさにこのこと。
(モダンドールズは桃千を応援しています)
9.木 更 津 + 観
月
ゆらゆら揺れて、ゆらゆらで、うるうる潤んで、うるうるの、うらうら憂う、うららかな午後。
うーららーうららーうらうらでー
「リンダですか」
熱のない金属のうごめく感触を首筋に覚えながら、なつかしのメロディを口ずさんだ。俺であったはずの長い髪の毛は、まるで見ず知らずの他人のように愛想のないまま、部室の床を染めていく。
「亮じゃなくてごめんね」
「いいえ」
何も知るはずのない彼が間違うのも無理はない。生み育てた両親でさえも区別することが困難なほどに俺たちは似ていた、いや、同じだった。すがたかたちはもちろんのこと、互いが同じ性器から飛び出しただけの他人であるということを知りながら、俺たちは1対ではなく1人であるよう、誰もがそう頷くようふるまった。俺は亮で、亮は俺で、亮が笑えば俺は喜び、俺が泣けば亮は悲しんだ。そこには誰も割って入ることのできない、俺たち2人の確かな安らぎがあった。
「俺さ、ルドルフ好きだよ」
「そうですか」
「観月のことも好きになれそう」
じゃきっ、じゃきっ、じゃきっ。
亮の影が、遠く、離れてゆくのを感じた。まさに今、俺は2度目の朝を迎えたのだ。
「この世はわたしのためにあるー」
まだ何者でもない俺は木更津淳という1人の人間としての、新しい安らぎを知らなければならない。
(双子っていいなぁ)
10.越 前
× 菊 丸
「俺、菊丸先輩のためなら死ねますよ」
2つ年下のかわいがるべき後輩は、ときに突拍子も無いことを口にして俺の目を見開かせる。
「俺、すぐ先輩なんか追い越しますよ」
テニスコートの隅、汗だくのままべたりと座り込んだ俺をおチビは見下ろして、熱の篭った言葉をあくまでも彼らしく淡々と吐いた。 ゆっくりと腰を下ろして俺の前に膝をつくと、その小さな手のひらをがしゃんとフェンスに叩きつける。
「俺、いつまでもおチビじゃないっすから」
その顔は確かに一人の男だった。逃げられない。近付くくちびるに、俺は本能で自らの毛を逆立てた。
(皆川ボイスでよろしくおねがいします)
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